写真提供:SEISA OSAレイア湘南FC
──本日はよろしくお願いいたします。まずは金野様の経歴からお聞かせいただけますか。
私は小学校高学年の時に弟の影響でサッカーを始めました。当時の神奈川県には女の子がサッカーを続けられる環境がほとんどなく、中学以降は別の競技に転向するのが一般的でしたが、現在の監督である柄澤が女子チームを作るということで声をかけてもらい、小学6年生の夏頃からずっとこのレイアに身を置いています。選手として中高、社会人とプレーし、大学1年生の時にコーチ陣が入れ替わるタイミングで「チームに恩返しをしたい」と考え、選手とコーチの二足のわらじで指導者の道をスタートしました。現在は、中学生(U-15)の監督を中心に、高校生の指導やトップチームの広報など、幅広く携わっています。
──まさにクラブの歴史と共に歩んでこられたのですね。チームとして大切にされている方針は何でしょうか。
「人と地域に愛されるクラブ」であることを軸にしています。サッカースキルだけでなく、挨拶や礼儀、他者への敬意といった「心の教育」には非常に力を入れています。レイアはトップチームから中学生まで、年齢の幅はありますが、非常に距離が近く、中学生がトップの選手に気さくにアドバイスを求めたり、冗談を言い合ったりできる環境です。だからこそ、その中で「親しき仲にも礼儀あり」を学ぶことを大切にしています。
私が長年抱えていた「選手と向き合う時間の不足」という悩みが解決するかもしれない、と思ったからです。選手たちはクラブで練習する2時間以外の、残り「22時間」を家庭や学校で過ごします。その時間の彼女たちの心の変化や悩みを、指導現場の2時間だけで汲み取るのは限界がありました。
──以前は「サッカーノート」を活用されていたそうですね。その運用にはどのような苦労があったのでしょうか。
ノートは非常に大切ですが、運用が大変でした。ノートを回収しても、その日のうちに返さないと選手は翌日の記録が書けません。30名以上のノートを預かり、焦りながらも一人ひとりの内容に気合を入れて読み込み、深夜までコメントを書いて翌日に返す……そんな生活を送っていました。しかしiDEPなら、移動時間などの隙間時間を活用して、よりタイムリーに選手の内面と繋がれるのではないかと考えたのです。また、サッカーに特化したシステムである点も、記録の一元管理において非常に魅力的でした。
── 育成年代、特に中高生の時期は、心身ともに大きな変化を迎えるデリケートな時期でもあります。そうした中で、iDEPはどのような役割を果たしているのでしょうか。
この年代の選手たちは、日々の中でコンディションや気持ちに少なからず「波」があります。以前は、グラウンドに来た時の表情や雰囲気だけで判断していましたが、今はiDEPを通じて、選手が自分自身の状態をどう捉えているかを確認することができます。
大切なのは、指導者が一方的に状態を把握することではありません。選手自身が自分の「心の波」やコンディションを可視化し、それを客観的に眺めることで「自分を整える術」を学ぶことだと考えています。
── 「自分を知る」ことが、セルフマネジメントの第一歩になるということですね。
自分の状態が良い時も、そうでない時も、その理由を言語化したり記録したりすることで、自分をコントロールできるようになります。これはサッカー選手としてだけでなく、将来一人の自立した女性として社会に出ていく上でも、非常に重要なスキルです。
── 選手たちと向き合う際、指導者として意識されていることはありますか?
選手にとってサッカーの現場が、「自分自身と純粋に向き合える場所」であってほしいと考えています。日常生活では、学校や家庭、その他様々な環境がありますが、クラブにいる時間は、自分の目標や成長だけに集中してほしい。
iDEPのデータは、選手が自分自身と対話した記録でもあります。私たちはそれを見守り、時にはそっと背中を押す。選手が自分の力で歩んでいけるようサポートするための役割として、iDEPを活用しています。
── 指導体制にも変化はありましたか?
非常に大きな変化がありました。例えば、専門性の高い他コーチとの連携です。iDEPを導入したことで、他コーチと選手のやり取りも可視化され、チーム全体で選手を多角的に見守れるようになりました。
まさに「1対30」の指導ではなく、30個の「1対1」の対話を積み重ねられるようになったと感じています。エリートだけが集まる環境ではないからこそ、こうしたシステムを使って一人ひとりの個性に寄り添い、自分を認められるように導くことが必要だと考えています。
写真提供:SEISA OSAレイア湘南FC
──選手たちの「主体性」という面ではいかがでしょうか。
iDEPでは自分以外の仲間の評価や課題も見えるように設定しているため、「この子は今ここを褒められているんだ」「この子はここで苦労しているんだ」という情報が共有されます。すると、上の学年の子が「今そこが課題なら、一緒に自主練しよう」と声をかけるような、学年を超えたサポート(縦の繋がり)が自然に生まれ始めました。
──先生に言われるからやる「習い事」ではなくなっているのですね。
その通りです。今では自分たちで早く来てビデオを見たり、練習後に残って自主練をしたりしています。彼女たちが自分たちで動き出している姿を見て、環境を整えることの大切さを実感しています。
──最後に、今後の展望とiDEPへの期待をお聞かせください。
今後はさらに、映像とコメントをセットでフィードバックできる機能を活用したり、女子特有のメンタルのバイオリズムを可視化して、選手自身が自分の状態をコントロールできるように支援したいですね。
私たちの目標は、「日本で一番育成がうまいチーム」になることです。競争に勝つためだけのツールではなく、選手たちが自分を認め、一人の女性として、自立した人間として歩んでいけるよう、これからもiDEPと共に選手たちと深く向き合っていきたいと思います。
──金野様の情熱と、デジタルツールを「心の通い合い」に活用されている姿勢に深く感銘を受けました。本日はありがとうございました。
取材日:2026年5月19日
今回の取材を通じて心に残ったのは、金野コーチが語った「練習以外の22時間の影響力」という言葉です。指導者が選手と接する時間は、1日のうちのわずか2時間。残りの膨大な時間を選手がどう過ごし、何に悩み、何を考えているのか。そこに向き合おうとする真摯な姿勢が、iDEP導入の原動力となっていました。
「1対30」の集団指導ではなく、「1対1の対話を30個」。その情熱を支える「強力な伴走者」としてiDEPが機能している様子は、テクノロジーがスポーツの現場に「温かさ」をもたらす可能性を強く示唆しています。
「日本で一番育成がうまいチームになりたい」。その夢に向かって、デジタルとアナログを融合させながら選手一人ひとりの人生に寄り添い続けるレイア湘南の挑戦を、これからも応援し続けたいと思います。