コラム | iDEP

「目標への目印」を手に、世界の舞台へ。プロテニスプレーヤー黄川田莉子選手が語る、IDPとの8年間

作成者: Admin|Jun 23, 2026 8:30:00 AM

テニスとの出会い、そして「プロ」を意識したあの日

── 本日はよろしくお願いします。まずは、莉子さんのテニスを始めたきっかけからお聞かせください。

テニスを始めたのは小学校1年生の終わり、7歳の時でした。もともと体を動かすのが大好きで、何かスポーツをやりたいと両親に相談したところ、「テニスはどう?」と勧められたのがきっかけです。近くのスクールで週に1回のコースから始めましたが、小学校3年生の時に「選手コース(育成コース)」に入ったことで、週5回の本格的な練習が始まりました。

── いつ頃からプロを目指していたのですか?

実は、小学生の頃から「プロになってグランドスラムに出る」と口にはしていました。でも、当時はプロがどういう世界なのか、具体的に何をすべきなのかは全く分かっておらず、ただの憧れで言っていただけでした。それが明確な目標に変わったのは、中学1年生の時です。入学した中学校のテニス部のレベルが非常に高く、そこで切磋琢磨する中、団体戦の全国優勝、準優勝を経験しました。高いレベルの仲間と関わる中で、「自分もこの道で生きていけるかもしれない」と少しずつプロの道が視野に入り始めました。

決定的だったのは、高校2年生の終わりにアジア・オセアニアのワイルドカード(主催者推薦枠)大会で優勝して出場した「全豪オープン・ジュニア」です。普段の大会とは全く違う、熱気と緊張感に包まれた世界の舞台を肌で感じた時、「いつかジュニアではなく、プロとしてこのコートに戻ってきたい」と強く思いました。そこからはもう迷いはなく、高校3年生でプロに転向し、テニス漬けの毎日を送っています。

12歳で受け取った「IDP」という名の未来への切符

── プロを意識し始めた時期と同じ、小学6年生の頃にIDPを始められたそうですね。お父様から初めて話を聞いた時のことは覚えていますか?

ちょうど小学校6年生の終わり頃でした。父から「海外のトップ選手やジュニアはみんな、自分の頭で考えていることを言語化し、目標達成のために継続する取り組みをしているんだよ」という説明を受けました。

── 当時、IDPというのは少し難しそうな、あるいは面倒くさそうな印象はなかったのでしょうか。

正直に言うと、最初に聞いた時は「これは絶対に大変だろうな」と直感しました。でも、同時に「やり続けたら、絶対に大きな効果があるはずだ」とも確信したんです。海外のスター選手たちが実践しているなら、私も同じようにやらなければ追いつけない。そう思って、素直に受け入れました。私は昔から、父の提案に対して「嫌だな」とか「面倒だな」と反抗することはあまりなくて、むしろ「自分に必要なことだ」と前向きに捉えるタイプだったんです。

今振り返れば、12歳が「言語化」の重要性を完全に理解するのは難しかったかもしれません。でも、「頭の中を文字に起こして分かりやすくする」という作業を、周りの誰もやっていない。それなら、これをやり抜くことが自分の武器になるはずだと、子どもながらに感じていたのだと思います。

最大の壁は「自分に嘘をつけない言語化」

──実際にIDPを運用する中で、最も苦労した点はどこでしたか?

やはり「言語化」そのものです。これが今でも一番大変で、そして一番価値があることだと思っています。 IDPを書こうとすると、どうしても自分を甘やかしたくなったり、格好をつけたくなったりします。答えを出そうとしても、結局「集中する」とか「頑張る」といった根性論のような言葉に逃げてしまいがちなんです。でも、父や当時のコーチはそこをより具体的に引き出してくれました。「どうやって集中するの?」「集中するために、具体的に今、何を準備するの?」と、深く深く掘り下げられました。

この、自分に嘘をつかずに、限界まで細かく言葉にする作業は本当にきついです。頭がパンクしそうになることもあります。でも、抽象的な「頑張る」を、具体的な「アクション(行動)」にまで落とし込むことができれば、コートの上で迷うことがなくなります。「今はこれをやればいいんだ」という確信を持ってプレーできるようになる。この安心感は、苦労して言語化したからこそ得られるものなんです。

──苦労は大きいけれど、得られるものも大きい…わかっていてもなかなか継続するのは大変ですが、その大変な作業を続けてこられた要因などはあるのでしょうか?

続けられたのは、最初に伴走してくれた父とコーチが素晴らしい基盤を作ってくれたおかげでもあります。父が用意してくれたフォーマットと、コーチによる細かな指導。その二人のサポートがあったからこそ、面倒だと思っても「これをやれば強くなれる」と自分を信じて今日まで継続してこられました。

IDPが変えた「負け」の捉え方と向き合い方

──IDPを実践することで、試合や練習への向き合い方は具体的にどう変わりましたか?

一番大きな変化は、「目先の勝敗」だけに縛られなくなったことです。 もしIDPをやっていなかったら、試合に負けた時、ただ「悔しい、自分はダメだ」と落ち込むだけで終わっていたかもしれません。勝敗という結果だけに焦点が当たってしまうと、どうしても感情に波が出てしまいます。

でも、IDPがあると視点が変わります。あらかじめ自分が立てた「課題」や「アクションプラン」に対して、実際の試合で何ができて、何ができなかったのかを客観的に振り返ることができるんです。たとえ試合に負けたとしても、IDPで設定した課題が一つでもクリアできていれば、それは前進だと思える。逆に勝ったとしても、アクションプランが実行できていなければ、次はここを修正しよう、という具体的な道筋が見えてくるんです。

──  勝敗という結果だけでなく、プロセスに目を向けられるようになった。

もちろん、負ければ今でも悔しいです。でも、感情を整理した後に立ち戻るべき「基盤」が自分の中にある。目標を見失わないための絶対的な軸がIDPなんです。これがあるおかげで、負けた後でも「次はこれをやればいいんだ」とすぐに前を向けるようになりました。迷っている時間が減り、常に次に向けた準備ができるようになったのは、アスリートとして非常に大きな強みだと感じています。

テニスを超えて、人生に溶け込むIDPの習慣

── 競技以外でも、IDPの考え方が役立っていると感じることはありますか?

はい、日常生活そのものにIDPの考え方が染み込んでいる感じがします。例えば、私は今、毎日欠かさず日記を書いています。その日の自分の感情や行動を記録して、客観的に眺める。これは、IDPで学んだ「自分を可視化する習慣」そのものです。

── 自分の行動がすべて「目標」に繋がっているという意識が、生活の隅々まで行き渡っているんですね。

日々やることをIDPに明文化して登録することで、自分への強制力と意識付けになります。結果として、試合前の脳の状態がすごくクリアになりました。

──莉子さんの周りで、他にもIDPに取り組んでいる選手はいらっしゃいますか?

正直に言うと、私の周りでは聞いたことがありません。海外のアカデミーなどでは取り入れられているところもあるようですが、個人でここまで細かくやっている選手は珍しいのかもしれません。

──IDPをやっている自分と、やっていない周りの選手との違いを実際に感じることはありますか?

試合の振り返りの「深さ」が違う気がします。目標に対してどうだったかという多角的な視点を持つ人と、単に「あのショットが入らなかった」と単発の反省で終わってしまう人の違いは、長い目で見れば大きな差になると感じています。

Excelからアプリ「iDEP」へ、そして未来への「目印」

──これまでのExcel管理から、アプリ(iDEP)に移行してみていかがですか?

すごく変わりましたね。これまではパソコンを開かないと入力できなかったので、どうしても親やコーチが一緒にいる時に限られていました。自分のパソコンを持っていなかった時期は、特に不便を感じることもありました。 でも、今はスマホでいつでも持ち運べます。移動中の電車や、ちょっとした空き時間に、思いついた課題をその場でメモしたり、目標を再確認したりできる。手軽になった分、IDPがより身近になり、自分の意識を確認する頻度も上がりました。

──莉子さんが今の自分のIDPで掲げている、最も高い目標を教えてください。

長期目標としては、「グランドスラムで戦うこと」です。そのために、中期目標としてランキングを300位台に上げ、短期目標としては現在参戦しているITFの国際大会で優勝することを掲げています。

──厳しいランキング制度の中で戦い続ける莉子さんにとって、IDPを一言で表すと何になりますか?

私にとってIDPは、「目標への目印」です。 目標までの道筋が曖昧だと、どうしても足元がブレてしまいます。でもIDPがあれば、次にどこへ足を踏み出せばいいのか、その「目印」を自分自身で確認できるんです。

── 最後に、これからIDPやiDEPを始めようとしている若い選手たちに、アドバイスをお願いします

正直、言語化したり継続したりするのは、最初はすごく大変です。でも、やってみる価値は絶対にあります。自分の課題がはっきり見えれば、練習の1分1秒の重みが変わってきます。まずは自分の頭の中にあるものを、不格好でもいいから書き出してみてください。それが、いつか自分を支えてくれる大きな自信に変わるはずです。自分のキャリアの責任を自分で持つ。そのための最強のツールとして、ぜひ多くの人に体験してほしいです。

取材日:2026年4月28日

取材を終えて

インタビュー中、莉子選手は言葉を濁すことなく、自分の思考を的確に伝えてくれました。その姿こそが、8年間「言語化」という内省を続けてきた成果そのものでした。 IDPは彼女を縛る鎖ではなく、彼女が自由に、そして力強く世界へ羽ばたくための翼なのです。彼女が掲げる「グランドスラム」という目標。その頂へ続く道には、今日も彼女自身が刻んだ「目印」が輝いています。iDEPというツールを通じて、彼女の「目印」がさらに鮮明になり、グランドスラムの舞台で輝く日を、私たちは信じています。