TOP > インタビュー > 個の成長を最大化するために − JFA 城 和憲氏に聞く、育成現場におけるIDPの重要性とiDEP活用
2025.07.04
日本サッカーの未来を担う育成年代の指導において、個の成長をいかに最大化するかは重要な課題です。今回、JFA(公益財団法人日本サッカー協会)でユース育成ダイレクターを務める城 和憲氏に、これまでのキャリアや、選手育成におけるIDP:Individual Development Plan(個人の能力開発計画)の重要性、そしてIDPの作成・管理をサポートする弊社のシステム「iDEP(イデップ)」の活用状況と今後の展望についてお話を伺いました。
── 本日は貴重なお時間をいただき、誠にありがとうございます。まずは、これまでの城さんのキャリアと、現在JFAで担われている役割について教えていただけますでしょうか。
こちらこそ、よろしくお願いいたします。私は、高校時代は鹿児島実業高校でサッカー部に所属し、その後、1年間サッカー留学という形でオランダへ渡りました。日本に帰国してからは、今の鹿児島ユナイテッドの前身にあたるチームで2年間ほどプレーしました。その次に、JFLの、当時ホンダロックという会社(現在はミネベア アクセスソリューションズに社名変更)で、仕事をしながら選手、そして監督を務めさせていただきました。その後、2019年にJFAに入り、今に至ります。
現在、JFAではユース育成ダイレクターとして、育成事業全体の統括を担当しています。
── 指導者になろうと思われたきっかけは何だったのでしょうか。
実は、自分が指導者になるというイメージは元々全くありませんでした。ただ、JFLのチームで選手を引退した後、「ぜひ指導者としてやってほしい」という依頼をいただいたのが始まりです。最初は全く乗り気ではなかったのですが、「やってみるか」と始めてみたら、「指導するって楽しいな」と気づき…。それが指導を始めたきっかけでした。
── IDP(個人の能力開発計画)を知った経緯や、IDPに対して最初にどのような印象を持たれたのか教えてください。また、ご自身のIDP作成経験についても伺えますか。
IDPについては、JFAで活動している中で、世界のトレンドや様々な情報を把握していく過程で自然と耳に入ってきました。海外ではかなり以前から個別育成が取り上げられており、すでに多くの情報が我々のもとにも届いていたんです。そういった中で、日本としてもどうすべきかを考えた時に、私自身がIDPに非常に興味を持ったという感じです。自分から積極的に調べに行ったというよりは、世界のトレンドとして普通にあったので、自然に耳に入ってきたという表現が適切かもしれません。
最初にIDPを知った時、共感する点が非常に多かったですね。我々は、育成年代の選手に携わっていますので、選手個人個人にどうフォーカスして次のステージに送り出すか、という点を重視しています。もちろんチームの強化も重要ですが、個人を育成していくという点において、IDPの重要性は深く理解していました。ですから、このIDPを何とか日本でも導入できないか、と考えていました。
私自身がIDPを作成した経験としては、簡易的なもののみになります。選手自身が自分たちの課題にしっかり向き合って作成するという経験は、今まではなかなかありませんでしたね。やはりIDPの作成は難しいと感じます。何から取り掛かればいいのか、どう進めればいいのか、選手も指導者も悩むことが多いのではないでしょうか。
── いままでのIDP作成方法では、やはり現場での難しさや工数の多さが伴いますよね。そういった課題感をお持ちの中で、弊社のサービス「iDEP」を導入される前は、選手へのIDP指導や作成はどのように行われていたのでしょうか。また、選手指導や管理において、どのような課題を感じていらっしゃいましたか?
今でも指導者は、昔ながらの方法としてサッカーノートを使った選手へのフィードバックなどが中心なのではないでしょうか。我々の代表活動は短期間で選手が集まるため、iDEP導入前は、選手と個別に面談をしたり、試合後に少し話をしたり、といった形でフィードバックを行っていました。システムとして何か特別なものを導入して管理していたかというと、それはなかったですね。他のシステムで似たような機能や様々なものがあるのは知っていましたが、選手のフィードバックに関してシステム化して運用することは、なかなか実現できていませんでした。
選手の指導・管理における課題としては、今思えば「一方通行になりがちだった」ということを感じます。どちらかというと、我々指導者が課題を見つけて、「もう少しこういうことをやった方がいいんじゃないか」とアプローチすることは積極的に行っていたと思います。しかし、逆に、選手自身が本当に何を課題と感じているのか、といったところを深く汲み取ってアプローチできていたかというと、少し弱い部分があったのかなと感じています。どうしても、指導者側の満足に偏ったアプローチが多かったように思います。選手との双方向のコミュニケーションや、お互いの気持ちや認識をすり合わせることが難しい点でした。
── 一方通行になりがちな指導からの脱却が課題だったのですね。そうした課題を解決するためにiDEPの導入に至ったとのことですが、iDEPはどのように知られたのですか?
IDPを活用したいとは元々考えておりましたので、IDPをどのように管理し、導入していくかを色々調べていまして。色々なシステムがある中で、継続的に運用でき、使いやすいシステムは何かと考えていた時、ちょうどIDPの管理でiDEPを導入しているチームがあると聞き、Jリーグの方々との繋がりでお話を伺う機会を得ました。そこでiDEPを知り「面白い仕組みだな」と感じました。
iDEPを使い始めた時の印象としては、機能が非常に充実しており、慣れれば使いやすいだろうな、というものです。自分の強みや弱みだけでなく、試合結果やコンディションなどを入力できる機能があったり、映像データを取り込んだりと、現代のニーズに合った仕組みになっていると感じました。
現在、JFAアカデミーでiDEPを導入しており、アカデミー福島の男子、そしてアカデミー熊本宇城の男子で活用しています。選手たちのiDEP使用状況については、寮生活でスマートフォンの使用時間に制限があるなど、時間的な難しさは少々あるかもしれません。しかし、一度IDPを作成すれば自分たちでアップデートしていける仕組みなので、選手側の使いづらさはないと思います。やはり若い世代はスマートフォンの操作に慣れているので、すぐに使いこなせるのは彼らの強みですね。
一方で、指導者側としては、新しいツールを導入することに最初は抵抗感がある部分も正直あります。そこを何とか乗り越え、本当に選手のために何が必要なのかという視点で理解を深めてもらっている状況です。
──iDEP導入後、選手や指導者、チームスタッフに変化はありましたか?
iDEP導入後、すぐに目に見える成果が現れるのは難しいですが、選手の取り組み意識は確実に変わってきていると感じます。自分の課題に向き合い「自分自身が何をするべきか」ということにトライする姿勢が非常に出てきているのではないでしょうか。チームトレーニングの中でも、自分が何を必要としているのか、課題を克服するために、長所を伸ばすために何に取り組むべきかを、これまでは漠然と考えていたかもしれませんが、iDEPで「自分自身で課題を見つける」ことが明確化されてきたという印象があります。そして、それに対して指導者自身も選手とやり取りする中で、どうアプローチしたら良いのかを考えるようになっています。目標が明確化されることは非常に大切であり、その一助になっていることは嬉しいです。
私自身は統括する立場なので、現場のスタッフが取り組みやすい環境を整えることを考えていますが、指導者自身がチーム全体を見ながらも一人一人の個性を見てあげる、といった気づきが生まれることを期待しています。
指導者やチームスタッフに変化があったかという点では、以前よりも選手の個別性に対して意識するようになっているのは間違いないと思います。これまではチームの勝利に向けて、皆同じトレーニング、皆平等、という考え方が多かったかもしれません。しかし、同じトレーニングの中でも選手の悩みや抱えている課題を理解することで、彼らへのアプローチの仕方は必ず変わります。そういった意味で、指導者側の意識は確実に変わってきていると感じています。選手の目標が指導者側にも分かりやすく見えることで、それぞれの選手に合った道筋を作りやすくなっているようです。
選手は今後もサッカー人生が続いていきます。育成年代で指導者自身が携わる期間だけでなく、その先の長いサッカー人生を見据え、選手の個人能力やパフォーマンスを最大限に伸ばすことが我々の責任だと考えています。そこにフォーカスして指導に当たってもらえるようになればありがたいですね。
──iDEPを使うことで改善された点はありますか?
iDEPを使うことで改善された点としては、選手自身が課題を見つけ、これまでは指導者から与えられることが多かった改善策を「自分自身でどうやったらいいのか」と考えるようになってきたこと、これが大きいです。今までは指導者から与えられることが多かったのが、自分自身で考えるようになった。これこそが育成における選手の成長速度を速めていくのではないかと思っています。具体的なプレーでの大きな変化は5年後、10年後かもしれませんが、そこに繋がる「きっかけ」がiDEP導入によってできたのは、本当に大きな成果だと感じています。
── iDEPの特に気に入っている点、「ここがいい!」と感じる点を教えていただけますか。
iDEPの良い点は色々ありますが、やはりIDPの機能が一番良いと感じています。選手自身が項目を自由に設定し、さらに枝葉を広げるように細分化して目標や課題を設定できる点ですね。例えばキック一つとっても、右足か左足か、それによって自分の得意不得意も違います。そういった細かい点まで突き詰めて自分自身を見つめ直し、その課題にどう取り組むかというところまで落とし込める。全ては自分を知ることから始まる。その「自分を知る」という部分において、IDP機能は本当に素晴らしいと感じています。
──iDEPが選手の「自分自身で考える力」を引き出すきっかけになっているのであれば、我々も大変嬉しいです。さて、城さんはJFAアカデミーにおいて、今後iDEPおよびIDPの重要性(位置づけ)をどうお考えですか?
我々日本サッカー協会という組織の中で、アカデミーは「発信機能」があると考えています。我々が新しい取り組みをすることで、それを全国に発信していく、という役割です。Jリーグとも協力しながら様々な活動をしていますが、IDPやiDEPを活用して、選手個人のパフォーマンスを最大限に高める取り組みを進めています。特に年代が低いほど、勝利至上主義ではなく、選手自身の成長を最大化することが重要です。海外、特に欧州などでは、選手の市場価値を高め、選手を世に出していくことを重視しており、それが指導者の最大の責務だと言われています。我々も、iDEPのようなツールを使ってIDPを作成し、個人にアプローチし、選手たちの夢、例えばサッカー日本代表になって活躍するという夢をサポートしていきたい。そのために、個人の能力開発の重要性、IDPの大切さを全国に発信していく必要があります。その様々なトライができるのがJFAアカデミーではないかと思っています。アカデミーで積極的にトライし、そこで得られた情報を全国に発信することで、同じように個人の能力開発の重要性を感じ、取り組む仲間が増えていけば、日本サッカー全体がより良くなっていくのではないかと期待しています。
──iDEPが 日本サッカー全体のレベルアップに繋がることを私たちも願っています。城さんは海外での試合なども多く経験されているかと思いますが、育成世代の指導について、海外と日本の育成方針の違いを感じることはありますか?
これまで様々な国のチームと試合をしたり、関係者と話をしたりする中で、国ごとに持っているサッカーの哲学というか、育成方針にはやはり違いがあると感じます。我々は日本の良さを生かしていく必要がありますし、同時に海外から学ぶこともたくさんあります。
サッカーにおいて「こうすれば必ず強くなる」「サッカーで幸せになれる」といった唯一の正解があるわけではないので、我々は日本らしさを模索しながら進んでいます。
その中で、IDPのような個人の能力開発の考え方は、海外の方が先行していると感じます。世界のサッカーにおいて、IDPについては、遅いくらいで、他の国はもっと先に取り入れています。2025年に実施されたフットボールカンファレンスで海外クラブの日本人スタッフとご一緒する機会がありましたが、彼らはもう10年も前から、勝利至上主義ではなく選手をどう育てるかに方針を大きく転換しているという話を聞き、我々もより一層取り組むべきだと感じました。そういった話を聞く中で、やはりIDP自体は海外の方が進んでいると感じますし、我々もその重要性をもっと強く発信していかないといけないと思っています。
──選手を指導・育成する上で大切にしている考え方や心掛けていることを教えてください。
私が選手を指導・育成する上で最も大切にしている考え方は、「楽しんでもらうこと」です。やっぱりサッカーが楽しくないと上手くなりませんから。楽しさにも色々あって、例えば「できなかったことができるようになる楽しさ」や、「目の前の試合に勝つ楽しさ」など様々です。中でも、人間は難しいことにチャレンジして、それが上手くいった時に非常に大きな達成感を感じるものです。このIDPもまさにそうで、自分の課題領域が改善された時に達成感を感じるし、また次の目標が生まれる。そういったプロセスを通じて、子供たちにはサッカーそのものを「楽しんでほしい」と、常に話しています。
──「楽しむこと」そして「自分を知り、課題に取り組むこと」が成長に繋がるのですね。それは全てのことに言えるかもしれませんね。今後、iDEPを活用して、どのような選手、チームを育成していきたいですか?また、iDEPへの期待があれば教えてください。
iDEPのシステムの活用性は無限大だと感じており、これからもっともっと進化していくことを期待しています。我々の思いとしては、やはりサッカー日本代表で活躍する選手、そして本当に世界で活躍できる選手を育てていきたいという気持ちが常にあります。
そういった選手を育てる上で、個人をどれだけ伸ばしていけるか、世界に出ていくために何が必要なのか、という点を突き詰める必要があります。全体で行う練習だけでは、個々のニーズに応えるのが難しい面もあります。そのような時に、iDEPを活用して個人の時間を作り、選手に成長のきっかけを与えたり、一緒に課題に向き合って共感してあげたりすることで、選手自身の成長をサポートしていきたいと考えています。iDEPのシステムを使いながらJFAが掲げる「サッカー日本代表がワールドカップで優勝する」という目標に向けて、一緒に育成していければと思っています。
iDEPへの期待としては、今は主に選手向けの機能が充実していますが、今後は指導者自身も世界に出ていく時代になると思います。そういった時に、指導者自身が自分の強みや弱みを知り、伸ばしていくべき点を把握することが非常に重要になる。ですから、次のステップとして指導者版のIDPのような、個性のある指導者が世界に出ていくための、指導者自身の個性も伸ばせるようなシステムができてくると非常に助かります。そこに期待したいですね。
──今後は様々な領域の人々に使っていただけるようなアップデートも計画しておりますので、ぜひご期待ください。最後に、城さんご自身の目標や今後の意気込みをお願いします。
私自身の目標としては、この仕事をさせていただいている中で、日本のサッカーが発展していくことを願っています。そして、サッカー日本代表がワールドカップで優勝すること。これは本当に大きな目標として掲げており、そのために何が必要かを常に考えながら様々な取り組みをしています。サッカーファミリーが増え、皆がサッカーを通じてスポーツの喜びを感じ、サッカーを愛する人がどんどん増えていくことも私の大きな願いです。JFAが掲げる「2050年までにワールドカップで優勝する」という目標の実現に向けて、私自身は微力ながらも、日本のサッカーのために貢献していきたいと思っています。
── 本日は大変貴重なお話をありがとうございました。
JFAユース育成ダイレクターである城 和憲氏。明るく朗らかな語り口の中にも、育成年代の選手たち、そして日本サッカー全体の未来に対する熱い情熱と明確なビジョンが感じられました。今回のインタビューを通じて、城氏の経験に裏打ちされた洞察力と、育成に対する真摯な姿勢、そして日本サッカーの明るい未来を築こうとするリーダーシップを強く感じました。
iDEPがその一助となれるよう、我々も開発・サポートに尽力していきます。
JFA|公益社団法人 日本サッカー協会
ユース育成ダイレクター
城 和憲氏
1983年生まれ。鹿児島実業高等学校サッカー部に所属、卒業後はサッカー留学でオランダへ。帰国後は鹿児島ユナイテッドFCの前身にあたるチームにて活躍。その後、ホンダロックSC(現在はミネベアミツミFC)に所属、選手引退後は監督としてチームを率いる。2019年からJFAに所属。JFAコーチ九州チーフなどを経て、現在はJFAユース育成ダイレクターおよびU-18日本代表監督を務める。
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