TOP > インタビュー > 未来を拓く育成〜JFAアカデミー猿澤監督が語る、選手の考える力を育み、世界で通用する選手を輩出するために〜

2025.08.06

未来を拓く育成〜JFAアカデミー猿澤監督が語る、選手の考える力を育み、世界で通用する選手を輩出するために〜

目次

     

    今回は、JFAアカデミー福島U-15監督である猿澤様のお話を伺う機会を頂戴しました。長年にわたり育成年代の指導に携わってこられた猿澤監督が、個人の育成計画(IDP)の重要性、そしてiDEPの導入によって選手指導がどのように変化し、未来の選手育成にどのような展望をお持ちかについて、詳しくお話を伺います。

    育成の最前線から:猿澤監督の多岐にわたるキャリアと揺るぎない指導哲学

    猿澤監督3

    ──本日はお忙しい中、ありがとうございます。まず、猿澤監督のこれまでのキャリアを教えてください。

    はい、よろしくお願いいたします。 現在のJFAアカデミー福島のU-15監督というポジションになる前は、多岐にわたる経験を積んできました。中学校の体育教員として2008年まで働いた後、JFAのナショナルトレセンコーチとして約10年間活動しました。その後、レノファ山口FCでアカデミーダイレクターを3年間務め、さらにジェフレディースで3年間監督を務めました。直近では、AC長野パルセイロで中学生の指導とアドバイザーを1年間担当していました。

    現在のJFAの指導者になったきっかけは、教員として部活動の顧問を務めていた流れでトレセン活動に関わるようになり、その中で海外研修の機会を得、JFAに入った、という感じです。

     

    ── 中学の教員でもあったとのこと、ずっと若者の育成に関わっていらっしゃったのですね。猿澤監督が指導者として大切にされている考え方についてお聞かせいただけますでしょうか?

    指導する上で、私が最も大切にしているのは、選手自身が「自分で考えて、自分で行動できる」ようになることです。特にこれからの時代においては、この能力がますます重要になってくると感じています。選手との対話を通じて、彼らが考えたことをまとめさせ、それに対してアドバイスをするというやり取りの繰り返しは、非常に重要だと考えています。また、指導においては、常に「未来」を見据えた視点を持つことを意識しています。今の選手たちを目標にしていては遅れてしまうため、もっと先の、より良い選手をイメージしながら育成に取り組む必要があります。目先の試合の勝ち負けも重要ではありますが、選手が「前に向かって成長し続ける」ことが何よりも大切だと考えています。小学校や中学校の頃に良い選手であったとしても、成長が止まってしまう選手もいます。その後も成長し続けられた選手がトップで活躍できる選手になることが多いのです。

    指導者としては、選手たちが将来的に複数のポジションをこなせるような柔軟性を持つことや、後から芽が出てくるような選手たちの可能性を最大限に引き出すために、全体の成長に関わっていくことを心がけています。良いものを次世代に繋げていけるように指導したいと思っています。

     

    IDPとの出会い、そして紙とExcelが抱えた「データの壁」

    猿澤監督2

    ── ありがとうございます。監督の育成に対する深い思いが伝わってきます。次に、選手育成における重要な要素であるIDP: Individual Development Plan(個人の能力開発計画)についてお伺いします。監督は、IDPをどこで、どのようにお知りになりましたか?

    IDPとの出会いは、2019年にJリーグが立ち上げたプロジェクトが最初でした。このプロジェクトの中で、Jリーグ側がクラブ評価システムを導入し、その一環としてIDPを用いて選手の強化を進めるという形になり、そこで初めて知りました。Jクラブが、結果だけでなく選手の育成を重要視する、ということになったんです。

    私自身、レノファ山口FCのアカデミーダイレクター時代に、プロファイルやクラブのスタイルといったものを含め、IDPの作成をクラブとして一通り行いました。その時に、山口県の歴史や文化、それにサッカーが重なるような地域に根差したベースを持つことで、選手への指導がブレないという指針が示され、IDP作成のための詳細な指導もあったため、私にとっても非常に良いきっかけとなりました。実際に、その時に育成に携わった選手の中から、今プロで活躍している選手が2名います。

     

    ── iDEP導入前にもすでにIDP作成および指導を行っていらっしゃったのですね。実際にIDPを活用した結果、現在活躍している選手がいるということも、素晴らしいですね。では、iDEP導入前のIDPの指導や管理方法を教えてください。また、その際に課題として何か感じていたことはありますか?

    iDEPを導入する前から、JFAアカデミーではIDPを導入していこうという流れになっていました。当初は紙ベースでIDPの指導や作成を進めており、私個人としてはExcelで個人シートを作成して管理していました。選手にはストロングポイントとウィークポイントを分析させ、それに基づいて具体的な練習内容や意識することを考えさせ、木曜日の自主練習で実践するといった形でした。2〜3ヶ月に1回、振り返りも実施していました。

    この紙ベースやExcelでの運用において、いくつかの課題を感じていました。最大の課題は、「紙はデータとして残らない」という点です。選手が手書きで考えても、データとして残っていかず、振り返りが難しいという問題がありました。Excelシートで履歴を残そうと試みましたが、それでも書き換えたり修正したりするのが難しかったのです。また、アカデミーのように選手と常に一緒にいる環境であれば会話を通じてフォローできますが、Jクラブのように練習時間が限られていて選手との会話の時間が短い場合、紙ベースでは振り返りやコミュニケーションが困難であると感じていました。データとして記録する、それが後の財産となることの重要性を強く感じていました。

     

    iDEP導入で加速する「気づき」と「改善」のサイクル

    全体練習2

    ── なるほど、紙ベースでの運用の限界と、データ管理の重要性を痛感されていたのですね。それでは、その中でiDEPをいつ、どのように知ったのでしょうか?また、導入時の印象はいかがでしたか?

     

    iDEPを知ったのは2024年の夏、7月頃だったと思います。iDEPを使い始めたときの印象としては、それまでExcelシートでIDPを管理していたのに比べると、かなり見やすくなったな、と感じました。特に、iDEPのサークル表示によって、自分の課題であるウィークポイントとストロングポイントが視覚的に分かりやすく表示される点は非常に良かったですね。Excelシートだと平面的なリストになりがちですが、iDEPの図はパッと見て理解しやすいですし、選手が自分で分析し、それを噛み砕いて理解していく上で、視覚的な要素は非常に効果的だと感じました。iDEPは、その点で非常に使いやすいという印象です。

     

    ──視覚的にわかりやすい、ということは選手にとっても指導者側にとっても大切な点かもしれませんね。では、iDEP導入後、選手や監督自身の指導にどのような変化があったか、そしてiDEPの「ここがいい!」と感じる点についてもお聞かせください。

    iDEP導入後、選手たちには具体的な変化が見られました。定期的に振り返りを行うようになったことで「自分ができていなかったこと」に気づき、積極的に改善に取り組むようになりました。例えば、スピードに課題を感じて諦めていた選手がiDEPを使って振り返りを行うことで、スピードを出すためのアプローチを行ったり、ウィークポイントの改善が見られています。

    私自身の指導への変化については、正直なところ、iDEPの多機能さをまだ完全に使いこなせていないかもしれません。しかし、元々IDPで取り組んでいたものをiDEPに移行したため、運用上のやりにくさは全くありませんでした。むしろ、視覚的に見やすくなったことで、選手とのコミュニケーションがより深まる可能性を感じています。

    iDEPの「ここがいい!」と感じる点は、やはり選手育成に直接的に貢献できるツールであることです。選手をどう育てていくかというのは、どのチーム、どのクラブにとっても大きな課題であり、それがクラブの財産、JFAにとっては日本の財産になっていくものです。世界で通用する選手を育てるためには、一方的に「こうしなさい」と指示するのではなく、そのクラブに合った育成方法を確立し、真剣に取り組むことが重要だと考えています。iDEPは、そのような選手育成のプロセスを効果的にサポートできるツールだと感じています。

     

    ──JFAアカデミーにおけるIDPの重要性およびiDEPについては、どうお考えですか?

    IDPは選手を育成する上で非常に重要なものであり、iDEPはその活動をサポートするために欠かせないツールだと考えています。iDEPはIDPの思想に合わせて作られているものだと認識しておりますので、今後、コーチやスタッフがiDEPをどれだけ理解して使いこなせるかが鍵となります。iDEPとJFAアカデミーが共に前に進んでいければ、世界に羽ばたくような選手が数多く出てくるのではないかと期待しています。どこまでやれば十分というゴールはないかもしれませんが、常に前進していきたいと思っています。

     

    世界へ羽ばたく選手のために:iDEPと歩む育成の未来像

    猿澤監督4

    ──iDEPが選手の自律的な成長を促し、監督の育成の考えを具現化するツールとして期待されているのですね。監督が、今後iDEPの活用について期待することを教えてください。

    今後、サッカーはますます複雑化し、選手に求められる能力も多様になっていくと予想しています。例えば、センターバックもボランチもできるといったように、複数のポジションをこなせる柔軟性のある選手が求められたり、ですね。そのような選手を育成する上で、iDEPが非常に良い要素になっていくのではないかと考えています。一つのポジションだけを極めれば良い、という時代ではなく、将来を見据えて様々な経験を積ませる必要がある中で、iDEPがその一助となることを期待しています。

     

    ──iDEPが世界に羽ばたく可能性のある選手育成に関われることを大変嬉しく思います。では、最後に、監督ご自身の目標についてお聞かせいただけますでしょうか。

    現在所属しているJFAアカデミーという素晴らしい組織の中で、中学3年生という年代の「仕上げ」に関わっていますが、昨年卒業した選手たちが高校1年生で日本代表に入ったり、新しいチームで活躍したりする姿を見ています。私自身の目標としては、少しでも多くの選手が、次の年代に進んだ時に芽を出し、活躍できる選手になることです。そのために、引き続き選手一人ひとりの成長をサポートしていきたいと考えています。

    ── 本日は大変貴重なお話をありがとうございました。

     

     

    取材を終えて

    今回の猿澤監督へのインタビューを通して、選手指導におけるIDPの重要性、そして育成年代の指導に対する深い洞察と情熱が強く伝わってきました。短期的な試合の勝敗に捉われず、選手が長期的に成長し、将来世界で活躍できる選手となるための土台作りに重点を置く監督の哲学は、日本のサッカー界全体の発展に不可欠であると強く感じました。

    IDPおよびiDEPの可能性を信じ、選手育成のための有効なツールとして最大限に活用していきたいという猿澤監督の熱意は、JFAアカデミーから世界に羽ばたく選手の誕生を予感させるとともに、今後のiDEPの発展にとって非常に貴重なご意見となりました。

     

     

    JFAアカデミー福島 U-15監督

    猿澤 真治 氏

    1992年から2008年まで香川県内の複数の中学校でサッカー部顧問を歴任。同時に香川県3種トレセン責任者(1996-2004年)、四国3種トレセン責任者(2003-2006年)として地域のタレント発掘・育成に貢献した。2007年からは日本サッカー協会ナショナルトレセンコーチとして四国地区を担当し、10年間にわたり全国レベルでの育成活動に従事。2017年にはレノファ山口FCのアカデミーダイレクターに就任し、同年5月から6月にかけては、トップチームの暫定監督も務めた。その後、女子サッカーの指導にも携わり、ジェフレディースの監督として3年間指揮を執った。2023年からはAC長野パルセイロU-13監督兼アカデミーアドバイザーに。2024年2月より現職・JFAアカデミー福島U-15監督として、日本サッカーの未来を担う若手選手の育成に取り組んでいる。
    地域から全国、男子から女子まで、30年以上にわたり日本サッカー界で指導者として活躍している。

     

     

     

     

    無料デモ利用お申し込みフォーム

    導入やご質問など、お気軽にご相談ください。

    個人情報保護方針に同意の上、ご送信ください